データを見ると不買運動が依然として継続しているのは明らかだが、韓国語の日常会話をこなし、
常に韓国系SNSをウォッチしている筆者の目には、「#BOYCOTTJAPAN」「#NOJAPAN」など不買運動に関する投稿を見る機会は減ってきたように見える。
韓国の10代、20代の若者の実際の肌感覚はどうだろうか。
12月初旬、日本に旅行中だというソウル市内の私立大学に通う韓国人のAさん(22歳、女性)と浅草で会うことにした。
取材当日Aさんはウェーブをかけた黒髪ロングヘアーにシースルーバング(透け感のある前髪)という韓国で流行りのヘアスタイルに、
黒で統一したストリートファッションで現れた。
「10月頃から日本製品に関する話を周りがしなくなったので、不買運動をこっそりやめました」
Aさんは7月頃から不買運動に参加していたが、自分の意志で行っていたわけではなく、友人たちから仲間外れにされることを恐れてのことだったという。
今ではその友人たちと一緒にサンリオキャラクターのぐでたまのグッズを見て回ったりすることもあり、
Aさんの周りでは不買運動は終わったように感じるそうだ。
日本では原宿へ行きA BATHING APE、LUSHなど日本で買ったほうが韓国で買うよりも安いブランドや、
BILLIONAIRE BOYS CLUBといった韓国にはないブランドを中心に、ショッピングを楽しんだ。友人から買ってくるよう頼まれたものもあったそうで、
韓国でも若い世代の原宿系ブランドの人気は衰えていないようだった。
今回が初めての日本旅行だったというAさんは「歴史の授業やニュースで見るとのは違う、新しい日本が見えました」と話し、
日本に対するイメージが変わったそうだ。それでも写真をSNSに載せることはしないという。
「仲の良い友達とは日本についての話もできますが、全体公開のSNSにはやっぱり恐くて載せられません」
韓国で今、日本に関連した事柄をSNSに掲載すると必ずと言っていいほど"이 시국에?"というコメントがつく。
Aさんが恐れたのもこのコメントだ。直訳すると「この時局に?」という意味だが「このご時世に、日本関連の投稿をするのか?」という批判の意味が内包された流行語だ。
Aさんいわく、日本のビールを飲んでいるともれなく「このご時世に?」と言われるそうだが、
12月初旬、韓国の弘大入口駅近くにある大手コンビニチェーンCUの棚には、一番下の段にひっそりとアサヒスーパードライが置かれていた。
不買運動が始まる前はアサヒに加えてサントリー、キリン、サッポロのビールが幅を利かせていたことを考えると控えめになっていることは確かだ。
また「このご時世に?」という言葉は飲食物に限らず、アイドル関連の出来事にもよく使われる。
2019年8月にBTSの日本ファンミーティングの開催を中止するよう求めた韓国ファンのツイートにもよく見られた。
「このご時世に日本ファンミーティングが必ずしも必要なのか理解できない。果たして(韓国の)国民という自覚がなくなってしまったのか?勘違いも…笑える」
しかし「このご時世に?」という言葉は深刻な場面だけで使われているわけではない。すでに一種のジョークとしても使われ始めている。
データでは相変わらず高く出る「不買運動」ブームだが、徐々に温度感に変化が生まれつつある。
「8月に日本製品を使っていたら『え、日本製品使ってるの?この野郎、売国奴だな』と言われかねない雰囲気でしたが、今はただ『このご時世に?』と軽く茶化して言うくらいです」
そう語るのはソウル市の高校に通うBさん(16歳、男性)。Bさんは前回記事で「日本の文房具は使わない」と話していたが、
その後不買運動をやめて今ではジェットストリームのボールペンも使っている。8月に韓国製のペンに買い替えた同級生たちも、今では普通に日本製を使っているそうだ。
8月の取材当時には不買運動を積極的に牽引していたように見えた高校生たちが、今ではひっそりと日本製文房具を使い始めている。
「日本に行きたいけど、SNSに投稿できなかったら意味がない」「このご時世に日本旅行の投稿なんてできるわけない」という韓国人の声を今回多く聞いた。
日本以上にSNS社会の韓国では、旅行中の写真をSNSに投稿できないなら無意味だと考える若者も少なくない。
日韓関係が改善しない限り、若者の日本関連のSNS投稿へのハードルは高いままだ。
とはいえ、日本製品不買運動の温度感に変化が生まれつつあるのは、一般の若者の肌感覚のみならず、著名人のSNSもしかりだ。
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