◆◆◆
腰縄と手錠につながれた現職の国会議員を一目見て、言葉を失った。2人とも肌に艶がなく、やせ細り、着ているスーツもぶかぶかだ。9月4日午前10時に始まった第6回公判。厳粛な空気が漂う大法廷に突然、乾いたヤジが響いた。
「なんで検察を見るんだ」
声の主は、克行氏。目の前の証人席に座る案里氏の公設第一秘書(61)に向かって激高したのだ。
確かに、その女性は弁護人の質問に言葉を詰まらせ、時折よそ見をした。だが、それを咎めた前法相の声には張りがなく、首相側近の凄みは消えていた。
裁判長は不規則発言を口頭で注意。克行氏は弁護人に促され、「気を付けます。失礼しました」と謝った。
虚ろな目で遠くを見やる案里氏
東京拘置所での勾留が続く夫婦は、被告席に横一列で座る。ただし、間には刑務官が2人おり、身を乗り出さないと顔を合わせられない。夫が逆上した瞬間、案里氏は前を向いていた。
案里氏の頬は白いマスクで覆われ、顔色を窺うのは難しい。顔を動かすたびに浮き出る首筋の骨は、私が逮捕前に3時間向き合った時よりも目立った。開廷中、意欲的にメモを取る夫とは対照的に虚ろな目で遠くを見やり、しばし瞼を閉じる。それを見て、彼女が私の取材で向精神薬の服用を認めたことを思い出した。
突然号泣した女性秘書
証人席の女性秘書は、前日にあった検察の尋問では急に号泣した。参院選の公示前から大量の印刷物を地元有力者に配り歩き、無理を重ねた物量作戦を振り返りながら「どうにか案里さんを当選させたかった」と語り、悔恨を滲ませるように嗚咽した。秘書は「名古屋巻き」の黒髪、長い付け睫毛といういで立ち。体の線を強調したド派手な装いを封印し、就活生のような黒スーツを纏う被告席の“主演女優”より目を引く。
検察官が読み上げた女性秘書の供述調書によると、広島県議だった案里氏の国政進出は「上昇志向が強いから驚かなかった」。克行氏の不人気ぶりも明かし、法廷では克行氏の性格を「すごく心配性」と証言。冒頭のヤジは、その本性に迫ったやりとりの直後に飛び出したものだ。
2に続く
文春オンライン
https://bunshun.jp/articles/-/40368
もう一人、私が着目した脇役は克行氏の弁護人、田代政弘氏。前職の検察官時代、小沢一郎氏の元秘書が有罪になった陸山会事件を担当したが、公判中に捜査報告書の虚偽記載が発覚。書いた田代氏は職を辞した。
今回は政治家側に立つ田代氏だが、審理は検察側がリード。既に出廷した選挙スタッフ2人は克行氏を陣営の仕切り役と認定。1人は集票活動の詳細を克行氏に逐一報告していた訳を「強く叱責されるから」とこぼした。また、検察の調書から、「夜明けのアライグマ作戦」や「クジラ作戦」などユニークな愛称の選挙戦術が存在し、案里氏の肝いりは、「美女軍団練り歩き」だったことも判明。押収資料にあった「ぶ」という記号からは、夫が妻を「ぶーちゃん」と呼ぶプライベートも赤裸々に明かされた。
審理は長くて1日6時間。有力者や業者の実名が続々と出て悪漢小説(ピカレスク)を読むようだ。毎回の閉廷時に2人の腰が縄で締められる瞬間、「細さ」に改めて驚く。
私が傍聴券の抽選に外れたのは2度だけ。今や傍聴人は少ない。閑散とした大法廷は、長期政権のあっけない終焉を反映している。
引用元: ・https://fate.5ch.net/test/read.cgi/seijinewsplus/1600831940/