・迷走するクールジャパン
クールジャパン機構には多額の公的資金が投入されたが、残念ながらめぼしい成果が見当たらない。
投資したマレーシアの商業施設では、「アナと雪の女王」や「スター・ウォーズ」などの海外作品が展示されるといったお粗末な事態が判明。資金繰りがつかず経営破綻する投資先も出る中、機構幹部による女性社員へのセクハラ事件まで発覚し、世間の強い批判を浴びた。累積赤字は300億円超に達しており、現在組織の廃止が検討されている。
経産省が所管する別の官民ファンド「産業革新機構(INCJ)」の投資状況も悲惨の一言に尽きる。
漫画や邦画のハリウッド展開を目的に設立された東京の映画会社に数十億円を投資したが、素人然とした経営は出だしから行き詰まる。
結局、会社は一本も映画を製作できず、INCJは17年にタダ同然で持ち株を売却する羽目になった。
政府のクールジャパン戦略全体を見渡しても、当初の期待とは裏腹に迷走ぶりが目に付く。
経産省や文化庁、外務省など省庁間の連携が乱れた上に民間側も大して乗り気でなく、官民の足並みは一向にそろわなかった。
出版業界の中では「言論・表現の自由」を確保するために、過度に国に頼るべきではないとの考えも一部にあったという。
だが、ここにきて日本企業の姿勢に変化の兆しが出ている。
国内のコンテンツ市場に頭打ち感が出る一方、世界市場は着々と拡大を続けているためだ。
ー中略ー
・デジタル時代の『ONE PIECE』
ライバルは韓国だけではないのだ。
漫画についても、世界各地で次々と強敵が現れている。23年は米アマゾンとアップルがそろってウェブトゥーンに参入し、業界全体に激震が走った。アップルの場合、日本の読者は同社の電子書籍アプリ内の「縦読みマンガ」のページにアクセスすれば、専用の閲覧システムで快適に読み進められる。
おなじみの「話売り」形式を踏襲し、韓国拠点の制作スタジオと組んで独自作品を用意した。
今後は数十カ国で事業を広げる方針で、ウェブトゥーン市場の台風の目となる可能性は十分にある。
おのずと同社のお膝元である米国産ウェブトゥーンが脚光を浴びる機会も増えるだろう。
ー中略ー
・近年、AIを使った画像生成の技術が急速に進化
創作環境が整備されて描き手が増えれば、表現の規制が厳しいとはいえ作品のレベルも上がる。
総人口が14億人に達する中国は、潜在的なクリエーターの層も当然厚い。
北京市内で活動するウェブトゥーン作家の浅野龍哉は「中国の作家は創作への情熱に溢れ、驚くほど絵の上手な人が数多くいます」
と話す。もともと浅野は日本で漫画を描いていたが、鳴かず飛ばずの日々が続いたことから心機一転、15年に移住。
現地の大学で日本語や横読み漫画の描き方を教えていた。
だが、学生が夢中になって読むのは、スマホ画面に映るウェブトゥーンだった。
新時代の息吹を感じて自身でも縦読みの制作を手がけるようになり、20年には、顔を失ったダークヒーローを主人公にした『faceless(フェイスレス)』を快看で連載した。浅野は言う。
「日本人は日本漫画が世界で一番面白いと思っていますが、中国ウェブトゥーンの質の向上は目覚ましいものがありますよ。
しかも、最近は(中国が得意とする)AIを使った画像生成の技術が急速に進化しています。
もしかしたらデジタル時代の『ONE PIECE』は日本ではなく、海外で生まれるのかもしれません」
小川 悠介/Webオリジナル(外部転載)
文春オンライン 2/15(木) 17:12配信
https://news.yahoo.co.jp/articles/9263926a5f0e388e7cf2fdd36424c03fcbd86b77